現場調査から学ぶリノベーション前に知っておきたいこと Vol:2
〜給排水設備の現調〜
今回の記事では給排水設備(キッチン、トイレ、洗面洗濯、風呂)の現場調査をとりあげたいと思います。
キッチンを対面式にしたい、アイランド式にしてリビングを見渡せるようにしたいという方はこの記事が役にたつと思います。キッチンの移動に際しての注意点などにふれていますので読んでみてくだい。
給排水設備の現調
給排水設備の現場調査(以下現調)の現調項目と現調理由を以下の表にまとめています。
現調事項 | 現調理由 |
---|---|
キッチンの給排水経路 | キッチンの移動を検討する際に排水勾配をとるために排水ルート部の床を高くして段差をつける必要があるかに関わってきます。バリアフリーを優先される場合はプランによってはキッチンを移動することが難しい時もあります。 |
トイレの給排水経路 | 排水方向(壁排水or床排水)によってトイレの大きな移動や軽微な移動がどれほど可能かどうかを判断するために確認します。 |
洗面洗濯の給排水経路 | 洗面台、洗濯機の移動に際して排水経路を段差なしで床下で確保できるかどうかの判断をするために確認します。 |
お風呂の給排水経路 | お風呂の場所の大きな移動は排水勾配確保の面で難しいことが多いのですがどれくらい移動が可能かどうかを確認します。 |
給排水設備の現調は基本的にキッチン、トイレ、洗面洗濯、お風呂を「どれくらい移動させることが可能なのか?」を確認します。
水回り設備の移動には排水経路の確認がとても大切になってきます。水回り設備の排水は基本的にPS(パイプスペース)内の縦管(上下階に繋がる排水管)に接続します。
水は当然低い方に流れるのでそのための水勾配(緩やかな傾斜)を確保する必要があります。
その勾配を確保するために段差をつけなければいけない場合もありますし、プランや状況次第では壁内に排水経路を確保して段差をつけずに現場をおさめたりもします。
バリアフリーのプランをご希望かつキッチンを移動して対面キッチンにしたい方、洗面台やお風呂の位置を移動させたい方はこちらの記事を読んでみてください。
排水経路
水回り設備の排水管の経路を確認します。どこのPSの縦管(上下階に繋がる排水管)に排水がつながっているのか、壁or床から排水しているのかを確認します。
竣工図書を確認できる場合、下図のように明確に排水経路とPS(パイプスペース)内の縦管の位置がわかります。水色の線が排水管のルートで濃青がPS内の縦管です。
下が別の竣工図書です。こちらはスラブ(マンションの構造)の図面で「SL-80」と記載された箇所がみられます。
この「SL-80」という記載は「スラブ-80mm」という意味でこの範囲はスラブから80mm堀り込んでいますよ、という意味になります。
この図面でトイレの場所は-80mmでトイレの配管スペースが確保されていることがわかります。この辺りであればトイレは割と自由に動かせそうだ、という判断ができます。
キッチン
ここで、実際のケースの「BEFORE図面」と「AFTER図面」をみてみましょう。
キッチンは既存の壁付のキッチンから2列型のアイランドキッチンに変更しています。
竣工図書の確認と現場調査で、おおよそこの辺りだとキッチンをもってこれそうだなという判断がつきますので実現可能な間取りのプランニングの根拠になります。
こちらのケースの場合、既存のシンク位置より新しいキッチンの位置がPSより少し遠くになっています。既存の床下地を利用する計画でした。
ギリギリ必要な排水勾配を確保できそうだったのですが、もしかすると段差をつける必要があるかもしれませんというご説明をしていましたのでご理解をいただいた上でのプランニングとなりました。
解体確認後、勾配確保に必要な寸法が無事確保できるとの判断で段差なしのバリアフリーで現場をおさめることができました。ちょっとの段差で使い勝手が悪くなることもあるので一同ひと安心の瞬間です。
もう一つ実例を。
こちらの事例のキッチンの場合、PSが屋外に設置されておりキッチン排水管は壁内を通して配管されています。
対面式キッチンがご要望だったので、キッチンの腰壁内に排水管を配管して排水経路をとりました。
「AFTER図面」の水色の線が排水経路です。
トイレ
トイレの排水形式には大きく分けて壁排水と床排水の2パターンあります。
床排水:床下のスペースに排水管を通して縦管に排水する方式(トイレを移動できる可能性有)
壁排水:壁側に排水管を伸ばして縦管に排水する方式(トイレを移動させるのが難しい)
配管が外から見えない場合は床排水仕様になっています。
壁排水の場合、下の写真の赤丸に排水管を接続するためイレを動かすことは難しいです。
動かす場合、トイレからの排水管を横引きにして少しだけ動かすかというくらいしか手段はありませんので実際は動かさずにそのままの位置で新規のトイレに入れ替えるというケースが多くなります。
床排水の場合はケースバイケースですが動かせることがあります。
先ほどの「SL-80」という記載範囲、「スラブから80mmさがっていますよ」ということを竣工図書で確認できていたので、プランニングの際には動かして間取りする方向性で進めました。
図面上、黄緑の斜めに記載している線が「SL-80」の線になります。
この範囲内に新規トイレの排水位置が来るように設計していたので問題なく取り付けることが出来ました。
解体してみると確かに段差を確認できます。
これで問題なく予定していたプラン通りトイレを設置できるとなりました。
洗面洗濯
こちらもキッチンやトイレ同様に排水経路を確認します。
実例として移動することが難しかったケースで排水経路を考えて位置を変更した実例をご紹介します。
洗濯機パン置き場の排水がスラブから立ち上がっており排水立ち上がり位置を「全く」変更できなかったケースです。
脱衣所と廊下をバリアフリーにするため洗濯機下だけに10センチ床上げしてそこで排水を取り回しています。
洗面台も脱衣所内に設置するスペースがなかったため廊下側に配置し壁側を通して排水を繋いでいます。
浴室
浴室の移動に関してもキッチン、トイレ、洗面洗濯の移動同様にPS(パイプスペース)の縦管への接続と排水勾配の確保が大切になります。
今回はリクシル社製のマンションリモデル仕様ユニットバスを例にご説明します。
前提としてスラブ(マンション躯体の設置する床)〜ユニットバス床までの高さを標準の189ミリを基準としてご説明します。
図面の赤丸で記した部分が189ミリの場所になります。
青丸がユニットバスの脚です。こちらの脚の高さは変更できますが今回はわかりやすいように189ミリとしてご説明したいと思います。
UB.FL→ユニットバスの床のレベル
SL→スラブ(ユニットバスを据えつける床のレベル)
ユニットバス(UB)は基本的に下の3パターンの納まりになります。
UB FL→ユニットバスの床の位置
脱衣所FL→脱衣所の床の位置
基準FL→基準の床の位置(廊下、LDKなど)
SL→ユニットバスを置く床の位置
現場にもよりますがAかBのパターンのおさまりのケースが多くなります。
パターンAが一番多い現実的なおさまりになります。現場状況によってパターンBの納まりになることもあります。AかBかは排水経路やPS(パイプスペース)の縦管までの距離によって判断もしくはご提案の上決定することとなります。
ユニットバスを含む全ての床レベルをバリアフリーでおさめる場合はパターンCになることが多くなります。
ただ、パターンCの場合はピットという「掘り込み」がある必要があり、マンションによってこのピットの有無があります。また浴室を既存位置から移動できないという条件も必要になってきます。
↓こちらがそのピットです。(コンクリートの床が一段さがっているところ)竣工図に記載されていることもありますが解体確認までその正確な範囲が不明なこともあります。